先日、仕事でいつも接している79歳の男性に、とあることがきっかけで「うるせえ!」とキレられました。
職業柄、どうしても本人に言わなければいけないことだったので、謝る必要もない。けど、完全に男性の感情は爆発。
私も、仕事とはいえ、さすがに腹は立つし、言い返すこともできないので、自分の怒りを収めるまで時間がかかりました。
このような 「キレる高齢者」
『犯罪白書』(2016年版・法務省)によると、2015年の刑法犯の年齢層別の成人検挙人数は65歳以上が最も多く、特に暴行・傷害の検挙人数が20年間で著しく増加し、1996年の約20倍となっています。
日本の人口自体、高齢者が全体の1/4以上になったので、増えるのはある程度理解できますが、それにしても約20倍とは驚きです。
犯罪に至るほどの深刻なケースではなくても、公共の場所や近隣住民とのちょっとしたトラブルによって、怒りが止まらなくなるほどののしり続けたり、恨みを募らせて嫌がらせを続けたり、といったケースもよく耳にするようになりました。
どうして、こんなに「キレる高齢者」が増えたんでしょうか?
高齢者を一括りにすることはできませんし、角がとれて丸くなる人もたくさんいます。ただ、その人が急にキレる人になったわけではありません。
脳の老化(感情のコントロールができない)に加えて、退職等による社会的役割の喪失や高齢者のみの世帯の増加など、人間関係の希薄化、それに伴う「孤独感」、病気や体力の低下、年金生活などの経済的な問題等の「不安感」など、高齢になると多くのストレスを抱えます。
そして、昔とは違う社会的背景も大きく影響しています。
社会の急激な変化
社会の急激な変化も高齢者には大きなストレスをもたらします。その中核となるのが、ITの進展やインターネットの普及という変化です。
今回、新型コロナウイルスのワクチン接種の予約でも、これが浮き彫りになりました。そもそも、「スマホやPCを持っていない」「スマホは持っているけれどインターネットの使い方がわからない」
結局、「100回以上かけて電話予約した」「こどもや孫にweb予約してもらった」「自治体や学生ボランティアなどの予約サポートを利用した」というニュース。
インターネットは非常に使いやすく便利ですが、この流れに適応しにくい人、特にITの知識になじみにくい高齢者にとっては、生きにくさを感じる時代です。
高齢者がなじんできた文化
- 家族や知人に連絡をとりたくなったら、まず電話をする
- 買い物は、リアル店舗に出向いて店に並べられた品物の中から買う
- 物やサービスの使い方は、人に教えてもらいながら覚える
- 契約は紙ベース、対面で。営業担当者に話を聞きながら行う
現代ではコミュニケーションやサービスが次のようにシフト
- 家族や知人との連絡手段の中心は、SNS
- 買い物は、ネットで多くの情報から価格や品質を吟味して選ぶ
- ネットで検索して使い方を調べ、それでもわからなければ人に聞く
- 契約はオンラインで、複数の情報を見比べながら行う
新しい形態になじみにくい人、特に70歳以降の高齢者の多くは、生活の不便さを感じやすくなっているのではないでしょうか。
新しいことや慣れないことに適応するには多くの「緊張」と「不安」を伴うものです。ましてや高齢になってから、新しいことを覚えるということは、私たちが想像する以上に大変なことです。
身近な人々との良好な関係性の重要性
身近な人との良好なコミュニケーションがとれていれば、社会の変化にストレスを感じても、ストレスを会話の中で吸収しあうことができます。しかし、キレるまでストレスをためているということは、それを吸収し合える人が身近にいないことが考えられます。
たとえば、一人暮らしの高齢者で気軽に話し合える知人や友人と交流していない方は、身近な人と互いにストレスを吸収しあう機会が少なく、鬱屈しやすい状況にあるのかもしれません。もちろん全ての方にあてはまるわけではありません。
話は戻りますが、私に先日、キレた男性のことを少し紹介します。
毎日、昼から夕方まで私のいる施設に通ってきます。趣味の将棋をうちに来ています。
- 一人暮らしで息子さん2人は遠方に暮らしていて、疎遠になっている。
- 年金暮らしで節約しながら生活していることが、本人の話や生活ぶりから見て取れる。
- 新聞、ニュース、読書などの知的活動を好み、新しい事について学ぶ姿勢もある。
- ガラケーからスマホに切り替えたが、使い方が覚えられず、通話機能を使うのがやっとである。
- 社会的交流はあるが、身近に相談できる相手が見当たらない。
- 自分が正しいと思った事は人の意見を聞き入れない(頑固)。
- 自分はしっかりしているという自負がある。
どうでしょうか。けっこう当てはまりました。
この男性からもう一つ、私が感じることがあります。
「自分で新しいことに取り組みたいけど、一人で解決できず人に頼ることもできない」
何より「エネルギーと時間がある」ということです。怒ったり、キレたりするのもある意味、エネルギーがいります。
まだまだ、気持ちは現役だけど、老化による能力の低下があり、思うようにならない。でも、経験豊かな高齢者を敬って、自分のことを認めてほしい。そんな本人の葛藤と苛立ちを感じます。
「キレる高齢者」 切れないまでも、苛立ちは日常の中で何度となく経験するのではないでしょうか。
さあ、50歳を過ぎたら、年をとるのはあっという間です。私達世代が高齢期を迎える頃、時代の流れはもっと加速しているかもしれません。SNS時代、リアルな人間関係はさらに希薄化していくでしょう。それでも、今から、身近な人間関係を築いておき、人生後半に向けて、何か困ったときに、支えあえる人とのつきあいを、仕事や家庭以外の社会的活動で広げていくことが重要です。
他人とのつきあいなんて面倒…
私も同じです
- 自分にとって大切にしたいことは何?
- 安らぎや安心を感じられることは何?
- 自分にしかできない貢献があるとしたら何?
- 人生を後悔しないために何をやっておけばいいだろう?
- 達成したいことは何?自分の能力や強みは何?
- 達成のために、今すぐできる一歩は何?
- 新しいことに挑戦するために、自分で調べたり問題解決する努力はしてる?
個人活動も大切ですが、社会的活動で、自分が輝ける居場所をつくる事。そして、その中で良好な人間関係(質の良い関係)を自分で形成していくこと。
あなたは「キレる高齢者」予備軍になりそうですか?
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